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逃げ切りはやめてください

2010年3月号

 「逃げ切りはやめてください」…若いお母さんからこう言われた。「こんな日本にしておいて、自分は年金もらってリタイヤー、『若いもんは大変だねー』はないでしょう」。

 私たちは一所懸命生きてきた…つもりだった。日本は豊かになったし、多様で自由な社会がそこにある。しかし本当にそうなのか。確かにモノはたくさん持っているが、心の世界が荒んできていはしないか。多様性という美名の下に、無節操や我が儘勝手が放置されていはしないか。

 「職がないけど、介護や百姓仕事など厭だ」「会社は潰れても、企業年金の減額は困る」「国の防衛は大事だけど、基地は沖縄で」…どれもが滅茶苦茶に勝手だ。「年金の掛金など納めない、いざとなったら生活保護を受ければよい」…若者をこの絶望に追い込んだ責任は誰にある。際限なく肥大した人間の欲求は、地 球の自浄メカニズムをも狂わせた。 

 「こんな日本にしたままで、逃げ切りはやめてください」…私たちは、次の世代からこう問われている。
リタイヤ後は、夫婦水入らずの海外旅行もよいけれど、自分に閉じたゆったリズムに浸る前にやらねばならぬ事がある。古い世代から新しい世代への継承責任…自然界の動植物は、定められた「法(のり)」をきちんと果たして死んでいる。私たちは動植物に劣るのか。

 リタイヤしても社会にかかわり続け、少しでもましな日本を孫たちに手渡す責任が、私たちにはあると思う。問題が深刻過ぎ複雑過ぎて、個人の手には負えない か。いやいや、大層なことでなく、身近で顔の見える範囲のことでよい。もともと国であれ社会であれ、向う三軒両隣から出発したものだ。

 向こう三軒両隣り…近所の人に挨拶するだけで周りの景色が激変する。困っている人に手を差し伸べたときの彼我のほのぼの感…幼いころは無造作にやっていた。心が柔らかだったから。 
こんな小さな事から少しずつでよいでよい。隠遁など決め込まず、みんなでやれば社会は変わる。孫たちに贅沢品を買ってやるより、こんな社会をこそプレゼントしたいものです。【工藤】

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