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工藤さん

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千年目の地変と八十年の寿命

2012年6月号

 私が社会に出た昭和40年頃、「フローからストック へ」という言葉が流行った。欧州視察した日本のリーダー層が、重厚な石づくり文明に圧倒されて使い出した言葉だ。日本の豊かさは上澄み(フロー)だけだ、 貧弱な生活基盤(ストック)を充実せねば…このわかり易い言葉は、高度成長期の明確な国是となり、日本列島はコンクリートジャングルと化し、生活基盤は様 変わりした。  

 しかしいま、充実したと思われていた生活基盤のありようが、気が遠くなるように長い時間軸から根源的に問い直されている。

 私たち日本人はこれまで、美しくやさしい自然の恩 に酔いしれて、その自然の息遣いのリズムを、私たちの日常という時間軸に重ね合わせて考えたことはなかった。しかしいま、風光明美な日本列島は実は大陸プ レートの交差部分に乗っかっており、その地層は、1100年ぶりの大地(活断層)動乱時代に突入したという。私たちの持つ短い時間軸と大地動乱の長い時間 軸の波長が重なってしまったのである。大変なことになってしまった。

   長尾東海大地震予知研究センター長は、次のように警告する。「現在の状況は、1100年前と非常によく似ている。9世紀には貞観地震が起き、富士山が大噴火して、その後に東海地震が起きた。30年くらいの間に、天変地異がたくさん起きた。近い将来、首都圏はあと3回揺れる。マグニチュード(M)8クラスの房総沖地震、M7クラスの首都直下型地震、M8と言われている東海地震は、M9クラスかもしれない。東海地震には、富士山の噴火が連動する可能性が高いだろう…。」美しくそびえ、私たちの心の古里である富 士山は、864年(貞観6年)、1707年(宝永4年)の大噴火も含め、781年以降、16回も噴火している。

   地震や津波の引き金となる活断層の胎動は、10万年に数回という時間軸での事象である。それが、たかだか80年という私たちの寿命の時間軸と同調してしまったのだ!もはや「コンクリートからひとへ」どころではなく、私たちは、短い日常生活の中で、千年~十万年の時間軸への対処を迫られているのだ。

   これまでの日常では、自然の猛威は台風だった。台風は凶暴だが、一晩ひれ伏してさえいれば、翌朝は抜けるような快晴となり、平和な日常が戻ってきた。台風民族に策は要らない由縁である。

   しかし、地震も津波も噴火も、無策なれば命と生活基盤を根こそぎ奪い去っていく脅威である。千年万年単位の事象が襲ってくるならば、心の整理をしなければ、その前に。

   いつ来るかわからぬ津波に備え、20メートルもの防波堤を張り巡らし、息苦しく生きるのは日常否定で愚作だろう。策なく故郷を捨てて知らぬ土地に引っ越すのも、命の道筋否定で愚作だろう。日常の中で千年、 万年単位の事象を背負うのはつら過ぎる。

   いっそ、どうしようもない心配事など忘れてしまえばよい。海辺の人はこれまで通り海辺で楽しく生活し、千年、万年の猛威がとうとうやってきたら、高台の鎮守の森に駆け込めばよい。地変への策は必要で、いざとなったらこうするという、危機対処のシナリオは必須である。しかしどんなシナリオを描こうと、人智を超える猛威への対処は不可能だ。

   歴史を振り返り、先達の叡智に学ぶことも大切だ。歴史の事象は繰り返しなのだから。危険なところに、大切なものはつくらない…危険な活断層の上に危険な原発をよくもまーたくさんつくった愚行を、一刻も早く正すことも必要だ。背負えるものは背負えばよい。

   だがしかし、しょせん相手がデカ過ぎる。何をやって もかなわないから、日常のせめてのしあわせを得るには、力(リキ)が必要だ。恐怖など忘れてしまう知恵にもうひとつの力(リキ)、それは諦観だ。 万物流転…地球も太陽さえも消滅の運命にあり、諸行は無常であるという諦観こそが強い力(リキ)となって、わたしたちを救ってくれる。人間の命など、少し早いか遅いかのちがいはあれ、絶対に終わる!癌で死ぬか、交通事故か、津波に呑まれて死ぬかのちがいはあれ…必ず死ぬ運命にある…ならばもう、あたふたせずに「猛威が来たら死ぬしかない」と覚悟さえ決めておけば、日常は楽なものだ。猛威のことなど忘れ去って、日常を最大限に楽しめばよい。「死は必定…その ときはその時だ」という開き直りこそ、何よりの対策だと私は思う。

   私はこれまで、無常観とは、美しい自然と二重写しの、情緒的なものだと思っていた。しかし実は、諦観の中から、生きるエネルギーを絞り出す、壮絶な装置であるように思うようになった。【工藤】


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